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「お兄様は間違っています」 「私が?間違っていると?」 「このような方法で世界を支配するなど、間違っています!」 嘲笑うルルーシュに、ナナリーは真っ向から否定の言葉を返した。 「だが見てみろナナリー。私が支配してから、どこかで戦争は起きたか?暴動はいくらか起きているようだが、それは些細なこと。やがて反抗の意思は消え去ろうだろう。私の意に従うなら、平和な世界を約束しよう」 力で押さえつけ、生きる気力も明日への希望も無くした生ける屍となれば、争う事さえ出来なくなるだろう。 「このような平和、誰も望んでいません」 「そうとも言い切れない、今は反抗的な者が多いが、私の望むような教育を施し、私のための奴隷となれば、世界は争いが消えるだろう」 騒がしいのは今だけだと、ルルーシュは笑う。 「お兄様だけが幸せになる世界など、平和とは言いません」 「なるほど、では皆が幸せになるように、争いを起こした者、犯罪を犯した者は処刑しよう。今この時が皆の幸せになるような政策を考えるとしよう。何ならナナリー、お前の案を取り入れてもいい」 「お兄様が望む幸せな今を維持するために、お兄様にひれ伏せと?私はそのような世界を望んでいません。私は、皆が笑顔で生きていける、希望に満ちた明日という未来が欲しいのです」 「明日は今日よりも悪い世界かもしれない」 「いえ、明日はきっといい日になります。皆が幸せを願い、努力して生きるのですから、きっと明るい未来が待っています!」 「不確定な明日など不要だ。必要なのは私が望む今!」 「貴方の望む今を私は否定します!私は第100代皇帝ナナリ・ヴィ・ブリタニアとして、この手を汚す覚悟を決めたのです。皆と手を取り合い、築き上げる未来が、明日が欲しいから!」 ナナリーの叫びともいえる言葉と共に、銃声が鳴り響いた。 硝煙が上がっているのはナナリーの銃。 ルルーシュの胸元、白いシャツが次第に赤く染まっていった。 「る、ルルーシュ!!」 そこは既に大穴があいたランスロットのすぐ傍で、ふらつく足で後退するルルーシュは、今にもランスロットと外壁の隙間からのぞく暗い穴へと落ちてしまいそうで、スザクは慌てて駆けだした。だが、そんな状態でもルルーシュは銃口を下ろすことなくナナリーに向けていた。 その目はしっかりと獲物を見据えており、口元には笑みが浮かんでいる。 ざわりと背筋が震えた。 拙い。 間違いなく、ルルーシュは発砲する。 スザクは反射的にナナリーに向かって駆けだし、飛びついた。 その一瞬後に発砲音が鳴り響き、二人の頭上を凶弾が掠めた。 慌てて立ち上がり、スザクはルルーシュの元へ駆けだしたのだが、ルルーシュの姿は何処にも無かった。まさかと外壁まで駆け寄ったが、眼下には、真っ暗な空と、真っ暗な海だけが映っている。 純白のランスロットの足に、血に染まった手形が見え、間違いなくここから落ちたのだとスザクに告げていた。 「そんな!ルルーシュ!ルルーシュ!ルルーシュっっ!!」 スザクの悲痛な叫びは、風の音にかき消された。 重力に従い落ちていく事に恐怖は感じなかった この人生で最初で最後の生身の飛行を終えれば この命は終るというのに、何も感じなかった 轟音で耳がおかしくなってしまったのか 周りは酷く静かで、そして寒い 胸を赤く染めるこの傷だけが、唯一の温もりだった 空を見上げれば、そこには淡く輝く満月が浮かんでいた 命が存在しない、枯れ果てた哀れな星がそこにあった 多くの命が生まれ、死に、そしてまた生まれてくるこの星を 羨ましそうに眺め、見つめているのだろうか この星の命の環の中に入りたくても入れず 手を伸ばしても届かないことを知っているのだろう まるで俺のようだと、思わず自嘲した 俺は所詮世界のノイズに過ぎない 視界の月がぼやけるのと同時に意識も遠のきはじめ 走馬燈と呼ばれるものが流れるのをただ眺めていた 幼いころから今この時までの人生が目の前を通り過ぎる これは俺という人間が生きていた記録 いいとは言い切れないが、悪い人生でも無かった 望みは、叶えたのだから 視界は闇に閉ざされ、意識はそこで終わりを迎えた |